ネゴシ8 観劇の感想
さて『ネゴシ8』。去年延期になってから約1年半ほどでしょうか。待ってましたー!キャストに変更もなく、無事に千秋楽まで開催出来て本当に良かった。このご時世だと何があるかわからないですからね…。
仕切り屋 白又敦
ナルシスト 尾形大吾
オネエ 護あさな
クソガキ 秋谷百音
オカン 橋本亜紀
陰キャ 丹治泰人
ウザ男 うじすけ
オラオラ 伊勢大貴
作・演出 伊勢直弘
企画・制作 GORIZO
さてこの作品、ヒロアキという青年の中にいる8人の人格が繰り広げる、会話で進めていく物語。すごいセリフ量とテンポの良さで、ぐいぐい引き込まれていきます。
それぞれの人格は、仕切り屋、ナルシスト、オネエ、クソガキ、オカン、陰キャ、ウザ男、オラオラの8人。彼らはヒロアキのトラウマから生まれた人格。自分が女性だったらこんな目には合わないかもしれないと思って生まれたのはオネエ、強い母親に守ってほしいと願って現れたのがオカン、自分を好きになりたくて生まれたのはナルシスト、というようにみんなそれぞれ自分を守りたくて生まれてきた人格。
陰キャだってネガティブになることで自分の心を守ろうとしてそうなったわけだし、ウザ男も折れないメンタルが欲しかった、オラオラは周りから舐められなくないから生まれたし、クソガキも自分の代わりになってくれる存在が欲しいと思い生まれた最初の人格。そして増えすぎた人格たちをなんとかまとめたいという思いから生まれたのが仕切り屋。
ヒロアキは虐待やいじめにあったり、子どものころから辛い思いをすることが当たり前のような人生を歩んで来た青年。そんな彼は『ジョジョの奇妙な冒険』が好きなのですが、それを通して付き合っているクミコという彼女と幸せになっていこうとする、そのためにそれぞれの人格が協力して彼の背中を押そうと頑張るわけです。
みんなバラバラだけれど、ヒロアキを助けようとする気持ちだけは同じなんですよね。
どの人格も、自分にも覚えのある気持ちばかり。もう耐えられない誰か助けて、ただ普通にみんなと仲良くしたいだけなのにどうして、どうしたらもっと自分を好きになれるだろう、とかね。
自分と向き合っていくとどうしても色々な感情や痛みと向き合うことになると思うのですが、私は陰キャくんの、ポジティブがそんなに偉いのか、というセリフが突き刺さりましたね。ポジティブハラスメントとまで言ってましたからね。でもオラオラくんにかなり強引に諭されて少しポジティブになるのですが。
オラオラくんかっこよかった…!その名の通りオラオラなんですが、基本的に単純で人が良くて裏表がないんだろうなぁという人格。
どの人格もみんなそれぞれ魅力があって、意味があって存在している。そのことをクミコが教えてくれるわけです。どんな人格だって自分の味方で、自分を守ろうとしたり、応援してくれたりするんですね。
仕切り屋を演じた主演の白又敦さんはとても安定感があって安心して観ていられる役者さん。今回はまわりのキャラクターがあまりにみんな我が強いというか。仕切り屋は強烈なキャラクターばかりの中で唯一普通な感じで、正義感の強いヒーロータイプ。
それゆえに、一見かすんでしまいそうな存在なのですがまったくそうはならず。なぜならこれは彼がいなかったら物語が全然進まないし成り立たないし、ヒロアキもただただ混乱の中で生きるしかなかっただろうなと思うような存在だから。
白又敦さんは力強さとともにどこか儚さのある不思議な雰囲気のある俳優さんなんですが、特にすごいなと思ったのは前向きではあるけれど少し切ないラスト。この俳優さんのそういう持ち味によってより増幅されている感じで、彼が放つもので物語の中に引き込まれるような、不思議な感覚でした。
もちろんどの役者さんもみんな素敵で、それぞれのキャラクターがみんな輝いていました。ナルシスト役の尾形大吾さんの体のくねらせ具合とかすごく上手くて、またナルシストであっても嫌味なところや鼻につくようなところはまったくなく、それどころか可愛らしさがあって魅力的でしたし、護あさなさんはすごく美しい方で、エレガントさや優しさ、そして包容力があって、そこにコミカルさが入り混じっていてすごく素敵なオネエ役でした。
冷静で口が悪いけれどきっと誰より繊細なクソガキを演じた秋谷百音さんはすごく可憐で可愛らしかったし、オカン役の橋本亜紀さんは目力が強めで、みんなに恐れられるシーンは度々笑わせてもらいました。丹治泰人さんは陰キャの持ってる痛みとか本当は誰より生きたがってる感じとか、ちょっとはにかむような笑顔がすっごくチャーミングなところとか、そういう繊細な機微がすごく自然に伝わってきて素敵でした。
ウザ男は曲者ぞろいのキャラクターの中でもさらにマイペースというか、折れない感じが面白くて、そんな骨太すぎるウザ男を演じられるうじすけさんてすごいなと思いました。伊勢大貴さんのオラオラな感じはまったく違和感がないというか、演じているんだろうか…と思うようなまっすぐさや情熱的な感じがかっこよかった!
笑えるシーンもあったり胸が熱くなったり泣きたくなったり。小さな劇場空間の中に満ちていた暖かくて豊かな時間に、舞台っていいなぁと改めて思わせてくれる作品でした。
公演は終了してしまいましたけど、アーカイブ配信は9月12日(日)23:59までやってます。ご興味のある方はぜひご覧になってみてくださいね!
http://gorizo.co.jp/negoti8/

